「空像としての世界」 ―― 脳が、そして宇宙さえもが 「ホログラム構造」 をなしている可能性を問う。。。

 

 
1970~1980年代。「ニューサイエンス」 という自然科学の分野から起こった潮流があった。
コトバンク の解説によれば ――
1970年代にアメリカの自然科学分野で起こった反近代主義運動の一。西欧科学の根幹である物質主義・要素還元主義の克服を目指した。アメリカでは本来ニューエージサイエンスと呼ばれたが、日本でニューサイエンスと呼ばれるようになってから、アメリカでもこの言葉が使われている。
―― とある。
80年代当時、コンピュータのソフトウェア開発の仕事に携わっていた私は、そのあまりの 「要素還元主義」 的作業に明け暮らす毎日に、正直嫌気がさしていた。
学生時代から 工作舎 やら 青土社 やらから出版される本に親しんでいたこともあってか、「ニューサイエンス」 関連の著作に触れる機会も多かった。
 
こうした流れの中で一際私の目を引いたのは、カール・プリブラムに代表される 「脳ホログラフィ理論」 だった。
 
カール・プリブラム (Karl H. Pribram、1919 年 2 月 25 日ウィーン生まれ)
 

ジョージタウン大学心理学および認知科学の教授。神経生理学者。
神経外科医として訓練を受けたプリブラムは、スタンフォード大学で教授職に就き、脳梁についてのパイオニア的な業績を残した。
一般的には、認識機能のホロノミックな脳モデル開発者および記憶痕跡の継続的神経学的研究者として知られている。

 
ホログラフィ」 とは三次元的映像を現出させる写真技術で、その数学的原理は1947年に デニス・ガボ-ル により呈示されていたが、実際の技術的な実証が可能になったのは、レーザー の研究が進んだ1960年代になってからである。
通常の光学的写真ではフィルムに当たるものが、ホログラフィ では ホログラム と呼ばれるものになる。
この ホログラム には、対象となる被写体に関する光学的な全情報が フーリエ変換 されて レーザー 光線の干渉縞として記録されることになる。
そのため、ホログラム を単純に観察してもそこに被写体の姿を見て取ることはできない。
ところが、この ホログラムレーザー 光線を照射すると、干渉縞に 「織り込まれていた」 被写体の姿が三次元的な虚像として浮かび上がってくる。
 
 
 
 
当時、スタンフォード大学 に在籍していたプリブラムは、この ホログラフィ の原理に着想を得て、人間の脳に関する大胆な仮説を提起した。
これが 「脳ホログラフィ理論」 と呼ばれるものである。
 
ケン・ウィルバー 編の 「空像としての世界 ―― ホログラフィをパラダイムとして」 において、この理論は次のように定義されている。
「われわれの脳はある数学に則り 『具体的』 実存を作り出すが、それは別の次元、すなわち時間・空間を超越しながら有意味でパターン化されている第一次的な実在領界からの、振動数を解釈することによってなされる。
脳は、ホログラフィック(完全写像法的)な宇宙を解釈するホログラム(完全写像記録)である」
この 「脳ホログラフィ理論」 が呈示する主要な考え方を ウィルバー は次のように整理している。
「脳の複雑な数学的仕組みは、神経細胞と神経細胞の交点(シナプス)における相互作用に、おそらく依存している。この相互作用は枝分かれしている軸索上の微細な繊維の網状組織を解して行なわれる。神経インパルスは、この微細繊維の中で、数学を遂行することができる電位をもつ「緩波」のうちに顕在化してくる」
「脳における情報は 『ホログラム』 として分布しているといえる」
「感覚入力 ―― 聴覚、身体感覚など ―― のもつある種のステレオ効果は、一点に生じる感覚を一気に空間化する」
「プリブラムはまた、超越的経験にも、もしかするとある種の『投射』が伴うかもしれないと考えるに至った」
「神経ペプチド、この最近発見された大きい分子こそ、脳の伝達物質を規制するものであり、脳の機能を解明する糸口となりうることがいずれ明らかになると彼は思っている」
「神秘体験とは、たとえばDNAがそれぞれの器官を一つずつ形成するために選択的に抑制を解除するというような、他の諸現象と比べてすこしも奇異なものではないとプリブラムは考えている」
こうした 「ホログラフィ理論」 が デヴィッド・ボーム の 「内蔵秩序」 の理論と通底していることは明らかであろう。
しかも、プリブラムの見通しの中には人間の大脳の持つ潜在的可能性を予想させるものがある。
「われわれの脳はある数学的論理に則って、時間や空間を超越している根源的な実在領界からの振動を解釈することによって具体的な 『実在』 を造りだしている」 ―― というプリブラムの考え方は、「ホログラフィック・パラダイム」 として神経 生理学 や 物理学 をはじめとする 自然科学 と 神秘主義 とを矛盾なく結びつけるための有力な手がかりとなるかもしれないのだ。
 
 
この理論が注目され始めたのは、1970年代であった。
 
現在、この理論のその後の消息がどうなっているのかはまったくわからないが、いま再び光を当てられても良いのではないかと思う。
 
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